高島芳幸個展

高島芳幸個展





開催日程
2003年10月28(Tue)~11月08日(Sat)

 

「絵画」降臨                           高橋 博夫
またしても「絵画とは何か」「美術とは何か」という問いが頭をもたげてくる。それは幼子が親に対して繰り返す「なんでなの?」という問いのように際限の無い、また容易には答えの見つからない類のものであろう。

今春、「コレクションからの展開 絵画と彫刻の間─インスタレーション・高島芳幸」(うらわ美術館)という展示があった。地域ゆかりの作家櫻井英嘉(平面。故人)と津久井利彰(立体)の作品をギャラリーの両翼スペース(各31m2)に配し、中央の大きなスペース(220m2)に高島の作品を展示するという企画であったが、そのギャラリー中央に足を踏み入れた折に件の問いに捕らわれながらも、それに対する何がしかの解答めいたものが閃いたのは確かだった。ヴァルター・ベンヤミンは「認識は稲妻の閃光のようなものでしかない。テクストは稲妻の後に長く続く雷鳴である。」(『パサージュ論』[N1,1]岩波現代文庫)と書いているが、その残響が閃光の在り処を正しく指し示すものとは限らないという危惧を抱きつつ筆を執りたい。

同館の展示は、正方形(213cm×213cm)の綿布6枚を用い、それらを四方の壁面に貼り、或いは垂らし、或いは床に敷くといった設置の仕方であり、三方の綿布の上・下・左・右のそれぞれ一箇所の壁面には細いテープで四角が縁取られ、残り一方の綿布は型押しをするように木枠を包み、通常のキャンバス様の形態をなしている。近づいて見れば、各々の綿布には一瞬のストロークを思わせる黄色い油彩の痕跡が処々に認められる。また敷かれた綿布の上や床にはアクリル絵具で白く彩色された小石が幾つか置かれている。ギャラリー内に立ち入って覚えるのは全体に、至っ静謐な空気である。通常、インスタレーション(仮設設置作品)といえば物が複数置かれ、或る限定された時間の中で、或る一定の空間を作家の濃密なモティーフで包み満たし、その空間全体を作品として提示するものであると僕は受け止めているが、高島の作品は6枚の綿布を主とするそれぞれが個々の作品であるという感じは薄く、あたかもギャラリーの広やかな空間自体がひとつの作品であるという印象を抱かせる。否、それは作品とすら呼び得ぬものなのかも知れない。そのモティーフとは一体、何なのだろうか。

高島は、一貫して「確認」という言葉を使って自らの創作姿勢を説き、同時に室内展示には「用意されている絵画」というタイトルを冠している。着目したいのは、彼が自身の制作に「絵画」という言葉を用いているということだ。
現代美術には最早、無条件の前提といったものは存在しない。その「絵画」においては、それが現実の物であれ、イリュージョンであれ、痕跡であれ、写像は飽くまでも任意に選び取られたものに過ぎないということであり、また絵筆・絵具・キャンバスなどの手段も同断である。それは裏返せば、作品を「絵画」として定義するのは作品自体や鑑賞者ではなく、多くは作家の意識の側にあるということだろう。現代美術史には、キャンバスにナイフで鋭い切れ目を入れただけの作品やバーナーで焼け焦げの痕を付けただけの作品が「絵画」として登録されている。しかしながら、高島の展示には尚、「絵画」らしい気配がある。彼は極めてパーソナルな関心と立場から或る時期まで彼を導いてきた美術の一切を無効にして、「絵画」というものを問い直し、自らの創作の前提と成り得る位置を「確認」しつつ、慎重に制作に取り組んでいるように見える。

それにしてもアプリオリな前提や基盤、規範の無いということは一面では「自由」であり、それを無条件に受け入れて無数の現代美術の作家が天真爛漫に腐心しながら制作を展開してきているのは事実だろう。しかしながら、「自由」に伴う「関係」の断絶や離脱に気付くものは少ない。表現行為は他者との相互的な「関係」の探求・構築の上にしか成立しないが、その他者とは現実の対象だけではなく、過去とその作家・美術作品の総体をも指すのは言うまでもない。精神の臍帯を断ち切ることは難しい。むしろ、そうした過去の総体に対する弁証法的受容の「関係」を引き受けなければならない。創造は不可視の引用に支えられているとさえ言えるだろう。

高島の展示空間には「絵画」の「臨終の秘蹟」に立ち会っているような惻々たる喪失感がある。彼は「自由」からさえも遺棄されているのだ。「関係の断絶や離脱」を「断絶や離脱の関係」として受け止めるには、「自由」すら放棄する必要がある。その徹底したストイシズムの空漠たる精神の「荒野」を、生きいきと表現の発生する「未生以前」の薄明へ、そしてやがては「沃野」へと反転させること、そこに高島のモティーフがあるのではなかろうか。
さながら展示空間に浮遊しているかのような四方の綿布は「絵画」降臨の御幣であり、小石や四角いテープの縁取りは「絵画」の降臨するであろう「結界」を暗示している。
(美術評論家、俳人)



PROFILE

高島 芳幸(たかしま よしゆき)画家


主な個展
1985 「関係1985」(アートスペース・コア/束京)
1987 「関係 Jun.1987」(ギャルリー・スズキ/埼玉)
1988 「関係 Mar.1988」(真木画廊/東京)
    「開係 Oct.1988」(かねこ・あ一とG1/東京)
1989 「関係 Feb.1989」(ギャラリー伝/束京)
    「間係 July‐1989」(真木画廊/東京)
1990 「開係 Feb.1990」(柳沢画廊/埼玉)
    「関係1989〜1990 with Land scape」(ガロ・アートスペース/埼玉)
    「聞係1989−1990/PAPER&WOODWORKS」(O-LAND ART SQURE/埼玉)
1991 「関係 Oct.1991」(J2 GALLERY/東京)
1992 「関係 Jan.1992」(ギャラリー伝&FLOOR.2/束京)
    「関係 May.l992」(ギャラリーK/束京)
1993 「関係 May.1993」(真木・田付画廊/東京)
1994 「関係 Mar.1994」(浦和マチエック/埼玉)
    「Fu. May l994」(ギャラリーK/東京)
1995 「Fu. May l995」(真木・田村画廊/東京)
    「Fu. July l995」(KIM NAE HYUN ART GALLERY/ソウル・韓国)
1996 「-物・間・為-Fu.(Mayl996)」(ルナミ画廊/東京)
1997 「用意されている絵画-Fu.(May‐1997)」(真木・田村画廊)
1998 解放された視野・2高島芳幸展「用意されている絵画一Fu.(Apr.1998)」(ルナミ画廊/東京)
    「用意されている絵画-Fu. (May.1998)」(西瓜糖/東京)
    「用意されている絵画-Fu. (Nov.1998)」(Gallery彩園子/岩手)
    「関係 Nov. 1998」(Gallery彩園子2/岩手)
1999 「用意されている絵画-Fu. (Feb.1999)」(GalleryFLOOR.2/東京)
    「聞係 July l999」(真木・田付画廊/束京)
2000 ことばの領分・高島芳幸展「用意されている絵画一Fu. July‐2000)」(ギャラリーそわか/京郡)
    「用意されている絵画-在るもの/見えるもの」(マチェック・高円寺/東京)
2001 「用意されている絵画-在るもの/在ること」(Galerie de Cafe 伝&Gallery FLOOR.2/東京)
    「用意されている絵画-在るもの/在ること」(ギャラリ一現)
2002 「関係Sept. 2002」(マチェック・高円寺/東京)
2003 「用意されている絵画-絵画をおく?」(SPC GALLERY/東京)
2005 「用意されている絵画-Painting-」(ギャラリー現/東京)
2006 「存在から関係へ」(The ART STAGE PORALIS/神奈川)
2007 「用意されている絵画-絵画という時間-」(ギャラリー睦/千葉)
    「用意されている絵画-絵画という時間?-」(ギャラリー現/東京)
2008 高島芳幸展(現代HEIGHTS Gallery Den.ST/東京)

主なグループ展
1984 第7回現代美術の祭典コンクール・優秀貫(埼玉県立近代美術館)〜’87
1985 第3回吉原治臭美術貫コンクール(大阪府立現代美術センター)
    モダンアート展(〜2000東京都美術館)
1986 現場’86展-内在する暴刀・暴動の衝突展(福島県立支化センター)
1987 現場’87展-通行する日常と非日常展(福島県桑折町体育館)
1989 第19回現代日本美術展(東京郡美術館.京都市立美術館)
    ’89アクリラート展(O美術館東京)
    EX‐IT(スペースAD.2000東京)
    ’89コンテンポラリー・アート・フェスティバルー99(埼玉県立近代美術館)
    NOT TITLE SUMMER’89現代アーチストセンター展(束京郡美術館)
1990 聚繖花序(埼玉県立近代美術館)
    名栗湖野外美術展90−92(名票村埼玉)
1991 Get out F32。(東京都美術館)
    ’91TAMON賞展/優秀賞(柏・そごう/千葉)
    滝沢アートフィールド ’91,93,95,97,2001(滝沢村・岩手)
1992 磁気状況’92 part I(Gallery 彩園子・岩手)
    1992春宮崎町美術展(宮崎町宮城)
    野外の表現展92(北浦和公園・埼玉)
1993 名栗湖国際野外美術展93〜95,97,99(名栗村/埼玉)
1994 日韓現代美術交流展(船橋市民ギャラリー/千葉)
    原風景7,8(束京都美術館)
    EX’(千葉県立美術館)
1995 韓日現代美術交流展95「末来への予感」(清州/韓国)
1996 ART FROM 蔵王96,98(山田牧場/宮城)
    子午線96・美術のユートピア(霊山町/福島)
1997 芝山国際野外アート展97(芝山町/千葉)
    CONTEMPORARY ART FROM JAPAN(HAFNARBORG/ICELAND)
    トラッシュライブ’97(台場/東京)
    断片一関係 Fragments‐Relation(ルナミ画廊/東京)
1998 第9回嬬恋高原芸術展〜99(嬬恋村/群馬)
    森の郵便局みやしろ「トライアングル 芽 種 土」(笠原小学校/埼玉)
    トラッシュライブ’98ゴミと美術家達展(西新宿中央通り歩道/束京)
1999 国際現代美術展「波動1999〜2000」(光州市立美術館/韓国)
    アーティストの周縁(アートスペース・トキ/東京)
    昭和24年会+2/2000年展(アートスペースわらぴ荘裏空き地/埼玉)
2000 The Movements of the Arts[芸術の胎動](ミューズ ザ・スクェア/埼玉)
    国際現代美術展「波動1999−2000」(神奈川県民ホール/神奈川)
2001 SPIRITの旅行・2001(ギャラリーアート2001/C,福島)
    再会プロジエクト・国際環境美術展(大森ベルポート/東京)
2002 日韓O円周のない円展「The Voyage through the modern art of Yamate」(横浜・イギリス館/神奈川)
    美術の現在・現在の美術(ギャラリーアート2002/福島)
    釜山国際環境芸術祭(龍頭山美術館/韓国)
    第5回 我孫子野外美術展(我孫子市・古利根の森/千葉)07
2003 平面と立体の間-インスタレーション・高島芳幸(うらわ美術館/埼玉)
    国際現代美術展=21世紀現代美術と今=(光州ビエンナーレ美術館/韓国)
    国際野外の表現展 2003比企, 04.08(東京電機大学キャンパス/埼玉)
    ART COCTAIL 2003-05(山脇ギャラリー東京)
2004 04 アイスランド・日本現代美術展(ハフナルボルグ/アイスランド)
    国際現代美術展「眼差しの東洋・手の記憶-沖縄からの発信」
    (浦添市美術館、旧国頭村立小・中学校/沖縄)
2005 日韓現代美術展「環流」-共鳴、共振する場-
    (大谷地下資料館、現代史資料館「まほろば」、GALLERY GOTMOI/韓国)
2006 CAF.N Michigan Exhibition
    (Duderstatdt Center Gallery,The University of Michigan/アメリカ)
    ART MEDICINE(東京都美術館)
    ART COCTAIL 2006 in 笠間(大谷石倉庫/茨城)
    千早赤阪村野外美術展 in 金剛山(大阪府).07
    第6回「かたち・ふれあい」展(実践女子大学/東京).07.08
    美術計画2006(村田商人ヤマショウ記念館/宮城)
2007 CAF.NEBULA in 松江(島根県立美術館/島根)
    接近展part?(府中美術館・府中郷土の森博物館/東京)
    美術計画2007塩竃(旧徳陽シテイー銀行/宮城)
    「11人の;」(東京都美術館)
    日韓現代美術展2007—多面体—(川崎市市民ミュージアム/神奈川)
2008 Art Base Null 作家交流展 in 山田家(大阪)
    現代の掛け軸展(ラトビア国立海外美術館/ラトビア)
    アートinはむら展?(羽村市生涯学習センターゆとろぎ/東京)
    「独り+35人の原風景展」(東京都美術館)
    「ギャラリー彩園子の現代作家50人展」(ギャラリー彩園子/盛岡)
    相模川野外アート展 Water Link 2008(相模湖交流センター/神奈川)

主な舞台インスタレーション
1996 「鶏アタマ/1000,2/1000」叛適信(浦和マチェック/埼玉)
2000 「COME ON GET HAPPY」叛通信(浦和マチェック/埼玉)
    「DIG DOG」/TPCB(浦和マチェック/埼玉)
2002 かなざわ国際演劇察2002「HITBOL」/TPCB(かなざわ芸術村/石川)
2006 ACkid 2006/喜多尾浩代ダンスコラボレーション(キドアイラック・ホール/東京)
2008 ACkid 2008/長岡ゆり舞踏コラボレーション(キドアイラック・ホール/東京)

パブリック・コレクション
HAFNARBORG(アイスランド)

文献/その他
同人雑詰「孤帆」8号『(関係)としての絵画/高島芳幸論』(高橋博夫)
現場 ’86展記録集 展評(田野金太)
磁気状況 ’92 展評(金野吉見)
壁新開「彩練子」1992(金野吉昆)
ACRYLART vol.9(Moving Now〉(作家)
’89アクリラート展カタログ(作家)
聚繖花序カタログ(作家)
「関係 May 1993」個展カタログ(高橋博夫)
同人雑詰「孤帆」14号『私の「表現」をめぐって』(作家)
CONTEMPORARY ART FESTIVAL 93〜99カタログ
Works 1992−1997高島芳幸「用意されている絵画」カタログ(山岸信郎、高橋博夫)
「ことばの領分」・高島芳幸展カタログ/展評(篠原誠司)