伊東直昭個展

11.11(Tue) – 11.22(Sat) 2003

PM12:30PM7:30 (Last Day PM5:30) 

Closed on Sunday


今展DM









開催日程
2003年11月11日(Tue)~11月22日(Sat)

 

「据わらざる橋」の下             松永 康(アートコーディネーター)

2001年の初夏、宮城県塩釜市で行われた「人と塩と美術」展を見た。この催しは寒風沢(さぶさわ)島をメイン会場とした日本とフランスの美術家による合同展であり、その中心となって運営を行っていたのが伊東直昭であった。そもそもこの催しは、フランス・ブルターニュ地方の塩田地帯で行われた展覧会に伊東が参加したことがきっかけで実現したものである。

イベントを見終わったあと、私はしばし伊東と雑談する機会を得た。伊東はこの催しが実現に至るまで、そこに関わる人々の調整のためにいかに時間を要したかを語った。華やかな催しの陰で、異なる人間どうしをつなげるための地道な橋渡しが続けられていたのだ。それを聞きながら、これまでの伊東の作品と伊東のこうした活動の間にどこか切り離しがたい接点があるように思えてきた。伊東直昭は1980 年代の初めから作品の発表を行ってきた。当初、絵画的な作品を制作していたが、そこには有孔アルミ板や鏡面板といった従来の絵画にはなじみにくい素材が用いられていた。そのため作品は絵画的なイメージとして目に映りながら、同時にナマの素材として見えてくる。ある意味でこれは、作品の中に混在する「イメージ」と「物質感」を意識的に切り離し、さらにそこに橋渡しをする試みであったと言うことができる。

1998年、伊東は前出のブルターニュで初めての本格的な野外展示を行った。屋外の一角に朽ちた遊具を見つけ、海岸で拾った漂流物などをそこに固定していった。近隣に住む人々にとってその遊具はすでに風景の一部となっていたが、そこに別な造形が施されたことで、彼らの中にかつてそこで遊んだことの記憶が呼び覚まされた。朽ちた遊具と人々の記憶は永く切り離されていたが、そこに新たな橋が渡されたのである。

2003 年の個展は「据わらざる橋」と題された。「人」の字に型取った鰯が壁や床に並べられ、会場の奥手には三日月状の橋げたを支える2つの人型が立てられた。その全貌はどこか遊園地のようである。観客は会場を自由に移動して、空間の変化を体験しながら作品と一体化していく。作品と観客という対立が一時的にだがそこで結びつくのだ。宙に浮いた不安定な橋がそのつながりを象徴しているようにも見えた。

人はものごとを識別することで知を発達させてきた。しかし一方で、それは人種、民族といった多くの分断を引き起した。そして今、分断されたさまざまな境界を越えるための新たな知が模索されるようになった。
作品の内部における異質性に橋を渡すことから始まった伊東の活動は、作品を通して質を異にする人間どうしを結びつける活動へと展開しているように思える。ただし芸術家にできるのは、そこに橋を架けることまでである。最終的にその橋を生かすのは、境界を越えようとして渡り続ける人々の意志に他ならない。



PROFILE

伊東 直昭 (いとう なおあき)

1959 神奈川県横浜市に生れる 藤沢市在住
1983 多摩美術大学、絵画科・油絵専攻卒業
1985 同大学院(美術研究科)修了


 

[個展]
1986 ・88・90・92・97 ルナミ画廊 (銀座)
1987 ギャラリーQ (銀座/東京)
1988 ギャラリーパレルゴン2 (神田/東京)
     88・90・94・2000 不二画廊 (堺筋本町/大阪)
1989 ギャラリーなつか (銀座)
1991 ・94 ギャラリーK (銀座)
     91・93・94 ギャラリーサージ (神田)
1996 ガレリア・グラフィカbis (銀座)
2000 銀座小野画廊2 A/B室(銀座)
2003 トキ・アートスペース (神宮前/東京)
    SPCギャラリー (兜町/東京)

[アーティスト・イン・レジデンス 企画・参加]
1986 大谷地下美術展’86,’87
1987 栃木県・大谷資料館地下採堀場跡
1991 日本/ベルギー現代美術交流展
    旧金竜小学校校舎(西浅草/東京)
    サンカント・ネール公園(ブリュッセル/ベルギー)
1995 日仏現代美術交流(パリ・フランス/京都)
    パリ・バスティーユ地区のアトリエ公開展
1996 同京都展 木屋町・元立誠小学校校舎
1998 「塩の芸術…芸術の変容」展
    (フランス、ブルターニュ・ゲランドの塩田地帯、ペン・ブロン・海洋リハビリセンター)
2000 ”LE TRAIT FRAGILE”塩田地帯でのワークショップ(ゲランド/フランス)
2001 塩竈−ブルターニュ芸術交流プロジェクト
    「人と塩と美術と」(宮城県塩竈市浦戸諸島)

[グループ展企画・参加]
1982 〜83 合同展示「病気がアートなおします」他 (自由が丘、横浜)
1985 合同展示 「百の目の中空」 横浜市民ギャラリー(関内/横浜)
1989 PLATEAU−錯綜の切断面ー 宮城県民ギャラリー(仙台)
    「アレゴリーとしての発条(ばね)」 ギャラリーサージ゙(神田)
1997 「ラ・コメット/彗星が私たちの道を示している」(日仏作家のコラボレーション報告展) 
    ルナミ画廊B室
2001 塩竈-ブルターニュ 芸術交流プロジェクト・記録報告展  トキ・アート・スペース(神宮前)

[グループ展参加(評論家・キュレーター・美術館・画廊等の企画を含む)]
1987 ROUND・1987 ギャラリーなつか (銀座)
    ルナミ・セレクション87 ルナミ画廊
    Person to person ギャラリーQ
    破水の徴候 20人の美術  ギャラリーパレルゴンII
1988 INTERNATIONAL EXHIBITION OF MINIATURE ART(デル・ベロ・ギャラリー トロント,カナダ)
    第24回今日の作家「多極の動態」展 横浜市民ギャラリー (横浜)
1989 リトル・プレゼンス 御茶ノ水画廊(御茶ノ水・東京)
    第2回アクリラート展 品川区立O美術館(大崎・東京)
1990 ミュージアム・シティ・テンジン イムズ(福岡)
1992 神奈川アート・アニュアル’92 神奈川県民ホール・ギャラリー(横浜)
1995 レゾナンス ギャラリー楽 (京都)
1999 起源イブ・第2夜/第3夜 ギャラリー・サージ
    アーティストの周縁 トキ・アート・スペース
2002 ・03「湘南の風」展 アートスペース・キテーネ (辻堂/神奈川県藤沢市)

[作品収蔵]
1996 秋田県雄勝町総合文化会館・展望閲覧室(立体造型6点)

[講演] 
1998 美術館市民講座 茅ヶ崎市美術館(茅ヶ崎・神奈川県)

[コンクール]
1981 第25回シェル美術賞展 入選(東京・名古屋・京都・福岡)
1982 ・83神奈川県美術展 入選 神奈川県民ホール・ギャラリー
1986 日本オブジェ展 入選 パルコ(渋谷/東京)